南米ドワーフシクリッドの繁殖について

 南米ドワーフシクリッドには大まかに分けると「アピストグラマ」「ミクロゲオファーグス」「タエニアカラ」「ディ
クロッスス」「アピストグラモイデス」の5種類が代表的な種類であるといえるだろう。このなかでも物の天
井に産卵する「ケーブスポウナー」と物の表面に産卵する「オープンスポウナー」の2種類に分かれる。
「アピストグラマ」「タエニアカラ」「アピストグラモイデス」はケーブスポウナーであり、「ミクロゲオファーグス」
微妙ではあるが「ディクロッスス」はオープンスポウナーと呼べるだろう。今回はケーブスポウナーとオープン
スポウナーに分けて説明していこう。

 まずは南米ドワーフシクリッドの中でも一番の大所帯である「アピストグラマ」及び、産卵、稚魚の育
成の形態がアピストグラマと同様な、一族一種である「タエニアカラ」「アピストグラモイデス」のケーブスポ
ウナーと呼ばれる種の繁殖から解説して行こう。

・アピストグラマとは

アピストグラマは最大でも10a未満にしかならないシクリッドであり、産卵した親魚は稚魚がある程度
まで成長するまで育児をすることで知られている。天然化での寿命はおそらく1〜1,5年ほどで、性成
熟は異常に早く、栄養状態にもよるが、早熟な個体であれば生後3ヶ月ほどで産卵を開始するメス
もいる。一度産卵を開始したメスは1年ほど産卵し続け、最終的には1000匹以上の子供達を育て
上げる豪傑もいる。

・アピストの繁殖行動の概要

性成熟したオスは全てのヒレをこれ見よがしに広げ、賢明にメスにアピールする。性成熟したメスであれ
ばオスのフィンスプレディングに答え、産卵に至るが、未成熟なメスの場合は、オスのアピールに対して
逃げ惑い、最悪の場合、つつき殺される事も多いので注意が必要である。
産卵が行われた場合、産卵終了後、メスはオスを産んだばかりの卵から遠ざける為に、体中をまっ黄
色に染め、自分よりも何倍も大きなオスに対し猛烈にアタックを開始する。今度はメスにオスがつつき
殺される事もあるので、ここでも細心の注意が必要である。特にペルー産のナイスニーやノベルティなど
ではこのような事故が顕著に見られるので、オスのサイズに対して半分ぐらいのサイズのメスでペアリング
する事をオススメしたい。

・親魚の選びかた

一般的にアピストグラマはペアで販売されている事がほとんどである。繁殖目的でペアを購入する場合
は、成魚サイズの一歩手前の個体を選びたい。選ぶ基準は
1、健康的であること。輸入直後以外で異常に痩せた個体や頻繁に体をこすり付けるような個体は
絶対に選んではいけない。
2、オスはオスらしく、メスはメスらしい個体を選ぶ。抽象的で申し訳ないが雌雄の特徴を顕著に表し
た個体がベストである。
3、入荷直後の個体は避け、十分にトリートメントの済んだ個体を購入する事。
4、累計的に人工孵化されたブリーディング魚の場合、自分が子育てされた経験が無いので、自分の
生んだ卵や稚魚を食べてしまう事が多々有るので、注意が必要である。特に初心者はワイルド個体
の方が扱いやすいので、入荷後しっかりとトリートメントされたワイルド個体で始めてみると良いだろう。
5、ブリーディング魚には相当な確率で奇形魚(頭がへこんだり、鱗が乱れていたりする)が混じるので、
遺伝的に遺伝するような奇形種は親として使用しないように気をつけよう。

・親魚の仕上げ方

成魚サイズ一歩手前の親魚を繁殖に適した個体に育て上げるには餌と水質の問題が一番であろ
う。輸入直後の個体であれば仕方ないが、人工飼料に餌付かないと言う理由で安易に冷凍赤虫や
イトミミズを与えるのは非常に問題である。あくまでもメインはブラインシュリンプのアルテミア幼生と優れ
た人工飼料を与え、健康かつ繁殖に適したスリムな個体に育てよう。
立ち上がった個体に人工飼料に餌付かせる方法としては、3日間ほど今まで与えていた冷凍赤虫や
イトミミズを切らし、人工飼料のみを与え続ければ、最初はいやいやながら食べていた(口に入れては
吐き出す)個体もいずれ餌付くはずだ。人工飼料の種類であるが、テトラ社のディスカスフードや大自
然のライフエコーなどがオススメである。

・繁殖用の水槽セッティングについて

繁殖についてだが、確実な系統維持を目指すのであれば、専用の繁殖用の水槽を立ち上げるべきで
あろう。レイアウト水槽での繁殖は不可能ではないが、育つ稚魚の数が少なく、母性の弱いメスの場
合、最悪、育児放棄して他の混泳魚の餌と化す事が多い。又、換水の頻度を上げられない為、折
角のレイアウト水槽がコケまみれになることも覚悟しなければならないだろう。
繁殖用の水槽であるが、基本的に45aレギュラー水槽が一番使い易い。この中に底面が軽く覆わ
れるぐらいに田砂を敷き、大き目のミクロソリュウムを活着させた流木を1ヶ入れたシンプルなレイアウト
が賢明である。
水質安定に自信のない初心者は、pHを自動的に下げてくれるソイルを厚めに敷き、ソイル自身の軟
水効果を利用する方法もあるが、ソイルの効果が3ヶ月ほどでなくなるので、こまめなリセットが必要に
なる。

フィルターはテトラのブリラントフルターが使いやすいが、筆者の場合は純正のスポンジを使用せず、アレ
ックス社製の大きめのスポンジを使用している。
ライトは魚の様子が観察できる物であれば、異常に水温を上げないことを前提にどんな物を使用して
も構わないだろう。

・水質について

ここはよく言われるアピストの飼育、繁殖に適した水質について説明しておこう。一般的にアピストグラ
マは低pHで硬度の低い軟水が適していると思われ、飼育者は低pHの軟水を作る事に必死になって
いるが、その典型的なネグロ河産のディプロタエニアやエリザベサエでさえ、pH6,5〜7程度の飼育水で
も十分に産卵、育児までこなせるのである。問題はpH等の水質よりも十分に濾過バクテリアが発生し
ているか否かであり、濾過バクテリアの一種である硝化細菌が十分に発生している場合、自動的にp
Hは下がるので、後は下がりすぎに注意して換水していけば良いのである。pHやkH等の数値はあくま
でも目安として考え、良好な飼育環境を維持することを最優先したい。目安としてのpHとしては上げ
る意味でも下げる意味でもpH6,5ぐらいの水が一番扱いやすいと言えるだろう。

以上のセッティングの水槽に調度良いサイズのペア魚を収容する訳だが、それぞれの種類によってマック
スサイズが違うので、繁殖させてみたいアピストのベストサイズ等はアピストグラマに対して造詣の深いシ
ョップに相談してみる方が良いだろう。こう言ったショップであれば、良いペアの見分け方や、繁殖に対し
ての知識があるはずなので、色々と相談に乗ってくれるはずである。近所にこのようなアピストグラマに
強いショップが無い場合は、インターネットでの通販を利用し、購入の際、繁殖を狙いたいので適した
ペアを購入したいとの旨を伝えれば、優良店であればその期待にこたえてくれるはずである。

・稚魚の育成について

産卵後、水温にもよるが大体3日で孵化し、ヨークサックを付けた稚魚たちはメスに守られ、更に3日
間を費やす。この間、メスは危険を感じた場合、稚魚たちを口に含み、他の安全な場所に移す事が
よくあるので、稚魚たちの姿が見えないからといって、水槽内にむやみに手を入れないほうが賢明であ
る。
産卵後、1週間すると稚魚たちはいっせいに自由遊泳を開始し、餌を摂取し始めるので、この時期に
合わせブラインシュリンプの幼生(アルテミア)を用意しておこう。人工飼料でも育たないわけではない
が、稚魚の歩留まりや成長具合、親魚の体力維持等を考慮するとアルテミアに勝る飼料は今のとこ
ろ無いと言えるだろう。
こうしてメスに守られ稚魚たちは次第に成長していき、順調に育てば、1ヶ月ほどで1aほどの大きさに
育つだろう。このサイズになればネットなどで掬った場合でも稚魚をつぶしてしまう事も少なくなるので、
親魚と分け、稚魚の育成専用水槽で集中的に餌を与え成長させるか、水草水槽に放ち綺麗な個
体に育てて欲しい。

・産卵後のオスの処遇について

ここでの一番の問題はオスをどうするかと言う事であろう。筆者の場合、大抵そのまま放置し、適当に
ペア同士緊張しあいながら双方で子育てをさせる事がほとんどだが、異常にメスが小さい場合や、気
弱でオスに負けてしまいそうなメスの場合、網目の粗いネットにて同水槽内にオスを隔離する事があ
る。この方法の利点は余計な水槽を用意する必要が無い事と、産卵ケースなどと違い、水の通りが
良いのでオスに余計なストレスをかけないで済む事が挙げられる。オスの隔離が遅れ、オスが稚魚たち
を育てようとする事が間々有るが、オスが育児をする場合、2,3日で飽きてしまい、稚魚たちを放置し
死亡させる事が多い。メスがオスに追われいじけてしまっても、その時点でメスが黄色の体色さえ失って
いなければ、オスを隔離してあげれば、メスが再び稚魚達を育児するので速やかにオスを隔離してあげ
たい。

・稚魚の育成用水槽での管理

稚魚の育成水槽のサイズは30aレギュラーが一番使い易い。
使用するフィルターはテトラのブリラントFが一番使いやすいだろう。
以上の稚魚育成用水槽に1a程度まで成長した稚魚たちを移動するわけだが稚魚の成長と共に飼
育水の劣化が激しくなるので、こまめな換水が必要になる。このサイズの稚魚は水質の急変に非常に
弱いので、稚魚水槽の本数に合った容積の安定した種水水槽が必要になる。
稚魚育成水槽にて2aを超えるサイズに成長したら、それぞれのサイズに見合った水槽に移動しよ
う。

・稚魚に与えるえさについて

孵化後から1aほどまではブラインシュリンプの幼生のみで構わないが、1センチを超えイトミミズが食べ
られるようなサイズになったら、イトミミズも与えたい。イトミミズを与えるようになると、飼育水の劣化は
非常に激しくなるので水質の急変には特に注意したい。又、イトミミズの与えすぎでオデブな個体にし
ない様に水流は強めにセッティングし、適度な運動量を確保したい。

ミクロゲオファーグス属及びディクロッスス属のオープンスポウナーと呼ばれる種の繁殖について

ここではオープンスポウナー(物の表面に産卵する形態)の代表的な種であるミクロゲオファーグス・ラミ
レッジィとディクロッススの産卵について説明しよう。ラミレッジィは平らな石や流木のなるべく平たいとこ
ろ、ディクロッスス属を代表するフィラメントウスやマクラータスはエキノドルスの葉の表面や流木の溝に
産卵する。

繁殖の概要

この種の産卵形態はまず、ペアを組むと、ある程度のテリトリーを主張し、他の魚を追い払う事でペア
の産卵が近い事を知る事が出来る。その後、ペアとなる雌雄での産卵場所のクリーニングが始まり、感
極まったところで産卵が始まる。まずはメスが円形を描くようにしてある程度の数の産卵をしたところで、
オスに交代し、生まれた卵に沿うように放精を開始する。この作業を何度か繰り返し、1回の産卵でラ
ミレッジィの場合100〜200ヶ、チェッカーボードの場合30〜50ヶ程、マキュラーターの場合、雌親のサイ
ズが大きいので100前後の卵を産み付ける。産卵を終えるとメスが卵の上に陣取り自分の産んだ卵を
守る。昔の書籍を見ると産卵後はペアで卵を守り、稚魚の育児に当たるとあるが、自分の知る限りそ
こまで仲良の良かった雌雄は無く、たいていの場合、アピストと同じように力の強いどちらかに卵を占領
されてしまう事がほとんどだ。オスのアプローチが余りにも強い場合はオスを隔離した方が良い結果が出
るだろう。

産卵後3日で孵化し、更に3日で自由遊泳を開始するので、そのタイミングでアピストの繁殖と同じよう
にブラインシュリンプの幼生を与えよう。巷でよく「ラミレッジィの稚魚は小さすぎてアルテミアを食べられな
いので卵黄やインフゾリアを与える」などと言うデマを聞く事が多いが、アルテミアのみで立派に成長する
ので心配はご無用である。
後の稚魚の育成についてはアピストに順ずるのでそちらを参考にして頂きたい。

繁殖に適した水質について

アピストと同様に中性以下の弱酸性であれば、さほど水質に留意する必要はなく、下手にpHが低す
ぎるとヒレが溶けたり、カラムナリスになりやすくなるので注意が必要だ。基本的にはアピストと同様にp
H6〜6,5ぐらいの飼育水が一番扱いやすいだろう。

繁殖水槽のセッティングについて

アピストと同様に45cm水槽に、ラミレッジィの場合は表面が平たい石や流木を入れる。フィルター等の
設備はアピストと同様で構わないだろう。
チェッカーボードのセッティングは、エキノドルス等の表面が滑らかな水草を植えるとその表面に産卵する
事が多い。又、チェッカーボードの繁殖にはペア以外に複数の雌を収容することで、繁殖の成功率が
上がる事が確認されている。神経質なチェッカーボードは丈夫な水草を多く植えたレイアウト水槽の方
が繁殖に適しているので、アマゾンソード等の丈夫で安価の水草をたっぷりと植えてあげよう。
マキュラーターの場合、何故か流木の溝ばかりに産卵する事が多く、完全なオープンスポウナーとは呼
べないのかもしれない。マキュラーターのオスは成熟するとサイズも10cmほどになり、メスへのあたりも相
当強くなるので、産卵後はオスを隔離した方が良いかもしれない。